「なんだ? お前たち!」 お菊と妙ちゃは、あわてて立ち上がった。 妙ちゃのヒザから、銀砂がポトポトと落ちた。 「誰がおるって?」 という声がして、また二人、少し身体の大きい男の子が木立の中から、ぬっと出てきた。 「お前ら、ここをどうして知っとるんだ」 一番大きい子が、ぐんと前に出てきて、二人の顔をじろっと見た。 妙ちゃは、お菊の手を握り、ぐず、ぐずっと鼻をすすりだした。 「わたし達が見つけたの」 お菊は小さい声で、でも、はっきり言った。 「見つけたのは、オレ達の方が先さ。勝手にここで遊ぶなよ」 「わかったか、遊ぶな。他の所へ行けよ!」 お菊は、仕方なくうなずいた。 妙ちゃの手がぶるぶるとふるえ出した。 「妙ちゃ、行こう」 お菊は、枝にある自分の着物と、妙ちゃの着物をとると、いそいで着た。 妙ちゃの指がふるえて、うまくヒモが結べないのを見てやると、黙って土手を上がり始めた。 「おい、待てよ。お前ら、山本のしゅうじゃないか? どうも川東じゃあ見かけん顔だ」 すると、一番先に土手を降りてきた子が 「そうだよ。こいつ、一年生だ。オレ、学校で見たことあるぞ」 と言った。 「山本のしゅうは、大西川で遊ぶなっていうことになっとるぞ。 お前ら、それを知らんのだな」 「そうだ、そうだ。大西川に入っちゃいかんのだに」 男の子達は口々に、 「出てけ、出てけ!」 と声を合わせて叫んだ。 お菊の心の中で、プチンと音を立てて何かが切れた。
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